2008年10月号C


「ポスト京都」の温暖化対策――欧州の視点からD
キャップのない排出権取引 世界から孤立も


   政府は21日、地球温暖化対策推進本部(本部長・麻生太郎首相)で、国内排出権取引制度の内容と試行の方針を正式に決定した。消極的であった産業界もこれを受け入れ、CO2排出量の多い電力、鉄鋼、セメントをはじめ、製紙、化学、自動車などの業界が参加する。
 
 排出権取引制度は、与えられたCO2排出限度を超過した企業が、限度以下だった企業から余った排出権を購入することによって、排出量を調整する制度。すでに、欧州連合(EU)が2005年から導入し、カナダ、オーストラリアや米国の一部の州も導入の方針を決めている。日本政府は、環境庁が積極的だったが、産業界に近い経済産業省が消極的であったため、7月に開かれた洞爺湖サミットでも曖昧な態度を取っていた。
 
 米国は、来年、新政権が発足後、排出権取引導入に踏み切るのは確実。日本も今回の取引試行の方針決定によって、世界の流れに合流することになる。ただ、日本の排出権取引制度は、企業の排出限度(キャップ)を政府が決めるのではなく、企業が自主的に決められる点で、EUなどの制度と大きく異なる。事実上、キャップのない排出権取引制度なのである。
 
 EUは排出権取引市場システムを2005年に立ち上げ、今年から12年までの間に改善を施した上で、13年からは入札(オークション)を含む本格導入を目指している。当面は加盟27カ国が対象だが、将来は世界規模への拡大を視野に入れており、米州、大洋州、アジアなどへの働き掛けを始めている。日本が導入に極めて消極的なことに対して強い疑問を示しており、「日本の排出権取引に対する理解は、欧米などに比べて10年以上遅れている。もし、導入を事実上拒否すれば、日本は世界から孤立するのではないか」(ドイツ環境省幹部のフランツヨセフ・シャフハウゼン氏)という声さえ挙がっている。
 
 地球温暖化対策の、もう一つの重要なポイントである国別中期目標の設定に関しては、日本とEUの主張の差はさらに大きくなる。EUが「2020年までに20%削減。他の先進国が合意すれば、30%削減も」と数値目標を明示しているのに対して、日本は、まだ、目標設定の意志さえ表明していない。福田首相は洞爺湖サミットで、少なくとも、「2050年までに世界全体で60〜80%の削減を目指す」といった長期数値目標を明示したい意向だったが、産業別(セクター別)アプローチに固執する産業界や、その影響を強く受けている経済産業省から「削減目標の設定は絶対の避けるべきだ」と説得され、断念した。

 セクター別アプローチとは、エネルギーを大量に使う産業別にCO2削減可能量を積み上げて、世界全体の削減量を決めようという方法である。この方法を用いると、日本のように省エネの進んでいる企業の技術が、技術水準の低い他国の企業に移転するという長所があるが、世界の業界全体の技術開発にブレーキがかかる恐れがある。このためEUは「セクター別アプローチは否定しないが、先進国が世界全体の削減目標を立て、それに基づいて厳しい国別削減目標をつくって、実行しなければ、地球温暖化は止まらない」(欧州委員会環境部門ナンバー2、ジョス・デルベーケ氏ら)と、日本を牽制している。

 2050年までにCO2排出量を半減するためには、中期目標の設定が不可欠なことはいうまでもない。排出権取引制度が目標達成の有力手段であることも明らかである。このことは日本の官民の関係者も認識しているようだ。しかし、目先の駆け引きにこだわって、「後出しジャンケン」をしようとしている。そのようなやり方は成功しない。最悪の場合、世界で孤立する恐れがあることを認識すべきである。

(「欧州からの視点」は、これで終了)