[今週の一言] 2月3日号――キューバ印象記B

■際立つ中国の戦略的進出、ハードもソフトも■
「もったいない」が根付いた社会も悪くない


キューバには年間300万人近い観光客が訪れる。主にカナダ、欧州連合(EU)各国、中南米からで、アジア人は極めて少ない。多少、目立つのは中国人だけである。そのせいか、私が街を歩くと、1日10回くらい、「チャイナ(中国)!」という声がかかる。私が「ハポネス(日本人)だ」といい返すと、人々は「そうか、日本か」と笑顔で手を振ってくれる。対日感情は悪くない。

キューバ国民が「東洋人=中国人」と考えるのは、中国がキューバを重要視し、ハード、ソフト両面でキューバに進出しているからである。

大都市における通勤の足はバスである。大部分は数十年前に製造されたポンコツ車で、黒煙を吐いてのろのろ走っている。だが、観光バスと長距離バスはまだ新しい大型車が揃い、乗り心地も悪くない。これらの大型バスはすべて中国製である。そうなる最大の理由は、中国が代金の後払いを認めているからであろう。

中国の進出ぶりで、それ以上に驚かされたのはテレビのチャンネルである。ハバナやサンチャゴ・デ・キューバの一流ホテルでは内外50近いチャンネルを見ることができる。米国、EU、中南米のものが中心であるが、アジアでは中国だけが3局も開設している。いずれも中国国営テレビ(CCTV)で、それぞれ中国語、英語、スペイン語による放送である。

ハバナ在留の日本人筋によると、「中国語を理解するキューバ人は最近、かなりのスピードで増えている。また、スペイン語を話す在留中国人も非常に多くなった。したがって、CCTVを見る人の数も確実に増えている」。お互いに地球の裏側に住む2つの国民の間で、どうしてこんなことが起きるのだろうか。

謎は簡単に解けた。中国は現在、約2000人の研修生をキューバに送っている。研修の対象はスペイン語をはじめ、医学、看護学、教育学、心理学と観光などである。一方、キューバは中国語研修生を中心に100人余を中国に送りこんでいる。この派遣費用は中国側が負担しているという。

中国が1960年代から80年代の旧・ソ連(現在のロシア)のように、キューバに食料、燃料から武器まですべての必要物資を送りこんで、共産党政権を支え、米国を脅かす意思を抱いているとは思えない。だが、硬軟交えたやり方でキューバ政府だけでなく民心を取り込む戦略を展開しているのは間違いない。そして10年後、中国が中南米とカリブ地域に5指に余る友好国を確保している可能性は十分にある。

キューバには、かつて砂糖や、その原料である砂糖キビを運ぶために使った鉄道が多数残っている。いずれも現在は国鉄だ。そのうち唯一の電化路線であるハーシー線に乗ってみた。ハバナ旧市街の、水路を隔てた対岸にあるカサブランカ地区から東へ約90キロのマタンサスまで4時間かけて走る。市内の路線バス以上にオンボロで、ドアはあるが、ガラスが欠けたままの窓もある。

写真やビデオは撮り放題。黒人の車掌が「運転席に来たらどうか。その方がいい写真が撮れるだろう」と誘ってくれる。運転席の脇で遠慮がちにビデオを操作していると、運転手が電車や通過中の地域について説明してくれる。最後には「貴方は日本人だそうだね。私はイチローやマツザカを知っているよ」といい出した。線路内に座り込んでいる牛や羊を追い出すために警笛をけたたましく鳴らしながらである。これが共産主義国とは!

私は滞在1週間を経過後、自分の行動パターンが変わったことに気付いた。紙も水も極力、節約して使うようになったのである。たとえばレストランでも、使ったナプキン用ペーパーを、よほど汚れていない限り捨てないようになった。シャワーの水も大事に使うようになった。「もったいない」という言葉を1日何回かつぶやくようになった。

ハバナの繁華街は連日、市民と観光客でごった返しているが、街には意外なほどゴミが少なく、清潔である。市が雇った掃除人が少数いることもあるが、最大の理由は、貧乏で「捨てるものがない」ことであろう。こうした面でも、キューバ共産主義は米国式資本主義のアンチテーゼ(対立概念)なのかもしれない。


                                                                      (早房長治、2月3日記す。「キューバ印象記」終り)